スペシャルインタビュー

新町の歴史を感じる。本と珈琲を楽しむ空間「長崎次郎書店」「長﨑次郎喫茶室」

熊本城の城下に位置する旧・商人町(新町)の中心部にある「長崎次郎書店」。ここは1874(明治7)年創業の歴史をもつ県内最古級の老舗書店で、かつては文豪・森鴎外も訪れていたという。そして時は過ぎ、2014(平成26年7月に「長崎次郎書店」はリニューアル、同年10月には2階に「長﨑次郎喫茶室」がオープンした。今回は、創業から5代目にあたる「長崎次郎書店」の代表・長﨑健一さんと、「長﨑次郎喫茶室」の店主・長﨑圭作さんにお店の歴史や新町の魅力、今後の展望について伺った。

長崎次郎書店
長崎次郎書店

創業140年以上。県内最古級の老舗書店を守りたくて

――長崎次郎書店のリニューアルの経緯を教えていただけますか。

圭作さん:もともと、長﨑家は骨董商を営んでいました。その後、学校制度が開始される際に、次男の長﨑次郎が教科書を配布する業者として指定を受けたのをきっかけに、書店を始めたのが長崎次郎書店の始まりと聞いています。それが1874(明治7)年の話で、健一くんは書店代表としては7代目になります。

圭作さん:健一くんの前は、私の兄が書店を経営していました。その兄が病気で倒れてしまい、1年3ヶ月ほど休業状態に…。私が臨時で代表を務めることになりました。そこで、健一くんに相談したところ、以前からここのことを気にかけてくれていたみたいで、色々と相談に乗ってくれて、そこまでここに愛着を持ってくれているのなら、と自然にお任せする流れになったんです。

左が圭作さん、右が健一さん
左が圭作さん、右が健一さん

健一さん:僕は以前から上通のアーケード商店街で長崎書店を経営しています。こちらは長崎次郎書店が創業してから15年後に、支店として私の曽祖父(長﨑次郎の甥っ子)が運営を任されたのが始まりです。なので、僕はずっと長崎次郎書店がルーツだと思っていました。それに、ここは文化財に登録されていたり、森鴎外が手記に記していたりと、他の書店にはない貴重な建物でもあります。そこもまた、素敵だなと思っていて、休みになるとよくこの辺りを散策していたんです。

健一さん:あるとき、長崎次郎書店の店先に「休業」の張り紙がされて、どうしたのかな…とものすごく心配でした。程なくして、圭作さんから書店の経営について相談を受けることとなり、色々とお話しているうちに僕が経営する流れになったわけです。以前から、僕だったらこんな書店にしたいなと思っていたものがあったので、圭作さんから「やってみませんか」とお話をいただいたときは、すごく嬉しかったのを覚えています。その後、建物は「国の登録有形文化財」なので外観はそのままに、室内はすべてリニューアルして、2014(平成26年7月にオープンしました。

書店内はモダンな雰囲気
書店内はモダンな雰囲気

――書店に置かれている本はどのようなジャンルが多いですか。

健一さん:以前は学校や官公庁向けの専門書籍が多かったのですが、今は新町で生活していらっしゃる方の生活に役立つもの、日々の暮らしがより豊かに、面白くなるものを大前提に揃えています。

一角にあるギャラリー
一角にあるギャラリー

――書店としてイベントやフェアなどはされていますか。

健一さん:一角がギャラリーになっていまして、月1回くらいのペースで県内外の画家さんや作家さんの展覧会をしています。展覧会によっては原画を見るだけでなく、気に入った作品があればそのまま購入することもできます。本の世界をより深く楽しんでもらえるような場にしていきたいです。あとは、2階の長﨑次郎喫茶室と連携して、料理研究家や絵本作家のトークイベントを開催したこともあります。先生方のお話を聞きながら、コーヒーやお茶を楽しんでもらう時間です。

2階が、長﨑次郎喫茶室
2階が、長﨑次郎喫茶室

窓から「新町」電停をゆったりと眺められる喫茶室

――長﨑次郎喫茶室のこれまでの経緯を教えていただけますか。

圭作さん:2階はもともと住居と事務所で、その空間をリニューアルして、2014(平成26年10月に喫茶室としてオープンしました。健一くんの前だからじゃないですが、書店がすごく素敵にリニューアルされるので、恥ずかしくないようなものにしたかったんです。それに、2階の窓から見える電停の風景がとても素敵で、ゆったりと眺められる空間にしたいな、と喫茶室を開くことにしました。

ゆるやかに時間が流れる店内
ゆるやかに時間が流れる店内

――喫茶室を開くにあたり、イメージされたものはありますか。

圭作さん:なんとなくスタンダードな喫茶店にしたいなとは思っていました。なので、流行を追いかけるのではなくて、喫茶店ならこれはあるだろうな、みたいなものだけにこだわっています。それこそ開店して間もないですが、「昔からあったよね」と思われるようなお店にしたいです。

長﨑次郎ブレンドと次郎風フレンチトースト
長﨑次郎ブレンドと次郎風フレンチトースト

――おすすめのお飲み物やお料理はどちらになりますか。

圭作さん:おすすめはインドネシア産の豆を使用したコーヒーです。ここでは、昔からプライベートでも利用させていただいている岩下珈琲さんの豆で淹れています。そこは代表自らインドネシアの農場と契約されていて、収穫後すぐに船便で送られてくるので、とにかく豆がフレッシュなんです。一般的な豆は手元に届くまでに時間がかかるので酸化してしまい、苦味が強くあります。一方、岩下珈琲さんの豆で淹れるとそれほど苦味が強くなくて、すっきりと美味しくいただけます。

圭作さん:料理だとプリンとフレンチトーストがとくに人気です。どちらも日によっては売り切れになることもあります。ちなみに、フレンチトーストはもともと家でたまに作っていただけの私のオリジナル料理です。以前、うちの息子が店に立ち寄ったときに「お父さんが作ってくれたあれ(フレンチトースト)美味しかったよね」と話に上がったのをきっかけにメニューにしました。

喫茶室でのイベントの様子
喫茶室でのイベントの様子

――喫茶室としてイベントやフェアはされていたりしますか。

圭作さん:喫茶室だけだと月1回ほど「うたごえ喫茶」を開催しています。伴奏者にプロをお招きして、MCは私が務めて、70代くらいの方々に歌っていただく催しです。今はコロナの影響で中止としていますが、4月からは規模を縮小して再開を予定しています。あとは、別の主催者の方にお願いされて、ここをライブやコンサート、講演会などの会場としてお貸ししたこともあります。

圭作さん:下の書店で本を購入された方が、上の喫茶室でコーヒーを飲みながらゆったりと本を楽しまれる。また、上の喫茶室が満席のときは、待ち時間を下の書店で本を読みながら過ごされる。このように長崎次郎書店と長﨑次郎喫茶室の間で循環ができているのもいいなと思います。

歴史的名所が多数。ぶらぶらと散策したくなる新町

長崎次郎書店の長﨑健一さん
長崎次郎書店の長﨑健一さん

――新町の魅力はどこにあると思われますか。

健一さん:中心地から少し離れているので、落ち着きがあります。生活のリズムが緩やかに流れていて、そこに市電の音が聞こえてくる他の街とは全く異なる情緒を感じられるでしょう。それに、新町はもともと加藤清正が熊本城を築城されたときの城下町です。町のいたるところに歴史を感じる建物が残っていて、ぶらぶら散策するだけでも色々な発見ができる面白さがあります。

健一さん:また、新町は昔ながらのお祭りが盛んな地域です。例えば、ご鎮座1000年以上となる「藤崎八幡宮」。このお宮で行われる「藤崎宮秋季例大祭」は400年以上の歴史があり、熊本市無形民俗文化財に指定されている獅子舞が町を練り歩きます。僕は新町在住ではなく、新たに新町で新しく商売を始めさせていただくという立場でしたので、地元の方々と交流を深め、土地のことを勉強するためにもと考えて、獅子保存会に入会させていただき、以来毎年お祭りにも「笛手」として参加しています。

電停から見える、長崎次郎書店
電停から見える、長崎次郎書店

――新町でお気に入りのスポットはありますか。

圭作さん:お隣に八百屋さん、お肉屋さん、お魚屋さんがあります。なんでもスーパーでまとめて買えてしまう時代に、こういう昭和の商店街のような風景が残っているのはいいなと思います。

健一さん:手前味噌ですけど、ここの建物は新町のランドーマークだと思います。あと、ここから少し歩いたところの「洗馬橋」電停も好きです。電停の側に第一高校があり、昔の町並みに若い学生さんたちがたくさんいる独特な風景は、どこか懐かしいような感じで元気をもらえます。

第一高校側の「洗馬橋」電停」
第一高校側の「洗馬橋」電停」

健一さん:電停からさらに進むと、石橋が見えてきます。1875(明治8)年にできた明八橋と、1877(明治10)年にできた明十橋で、どちらも古い石橋ですがちゃんと残っています。橋の下を通っている坪井川を眺めるのもいいですし、春になると橋の両端に植えられている桜の木が満開になり綺麗です。

明八橋と桜の木
明八橋と桜の木

――昔と今とで、新町の変化は感じられますか。

健一さん:僕はまだ日が浅いので昔との比較はできないですが、ここ10年ほどの間に銭湯や、料亭など昔からあったお店がいくつか廃業されました。中には、七五三はここで祝う、結納はここで執り行う、みたいな格式ある名店も含まれていて、それらが無くなったのは寂しいものです。

健一さん:一方で、電停のすぐ側にはフランス料理屋ができました。30代の若いご夫婦が始められたお店です。また、最近では、ここから歩いて10分ほどに大型商業施設「SAKURA MACHI Kumamoto」がオープンしました。これら新しいお店ができるのは喜ばしいことです。

「新町に住みたい」と思われる書店・喫茶室になる

――今後、どのようなお店でありたいと思いますか。

健一さん:町にいい書店と、いい喫茶室がある。僕はそれだけでも十分にその町に住む理由になると思います。だから、他の人にも「長崎次郎書店があるから、新町に行きたい」とか、「長﨑次郎喫茶室があるから、新町に住みたい」とか思ってもらえるようなスポットになりたいです。

健一さん:いつ訪れてもどこか懐かしい…と思われるようなお店であり続けたいです。もちろん、時代とともに変化する必要もあると思いますが、それをあまり感じさせないように営業していきます。

長﨑次郎喫茶室の長﨑圭作さん
長﨑次郎喫茶室の長﨑圭作さん

――これから新町に住まれる方に一言いただけますか。

圭作さん:新町は本当にいいところなので、じっくりとその良さを味わってもらいたいです。あと、新町にいらっしゃる際には、ぜひ長崎次郎書店と長﨑次郎喫茶室にもお立ち寄りください。

健一さん:普段使いしやすいお店もあれば、風情を感じられる場所も点在していて、新町は非常にバランスの取れたいい町だと思います。ちょっとした路地に入るだけでも面白い発見がたくさんあると思うので、ぜひ実際に自分で歩いてみて、自分なりの新町の魅力を見つけてみてください。

長﨑圭作さん(左)と長﨑健一さん(右)
長﨑圭作さん(左)と長﨑健一さん(右)

長崎次郎書店

代表 長﨑健一 さん(右)
所在地 :熊本県熊本市中央区新町4-1-19
電話番号:096-326-4410
URL:https://www.nagasakishoten.jp/shinmachi/

長﨑次郎喫茶室

店主 長﨑圭作さん(左)
所在地 :熊本市中央区新町4-1-19 2階
電話番号:096-354-7973
URL:http://jirokissashitsu.otemo-yan.net/

※この情報は2021(令和3)年3月時点のものです。