スペシャルインタビュー

武士から商人へ…。新町と共に歩む老舗の味噌・醤油屋「兵庫屋本店」

武将・加藤清正が築城した「熊本城」の城下町に位置する新町三丁目( 旧:蔚山町)。その一角で、およそ300年にわたり町の移り変わりとともに歩んできた「兵庫屋本店」。ここでは、オリジナルブレンドのお味噌とお醤油を製造・販売している。今回は、創業から数えて15代目にあたる代表・渡邊稔晃さんに、お店の歴史や資料室、新町の魅力、今後の展望についてを伺った。

創業300年。武士から質屋…そして味噌・醤油へ

――兵庫屋本店の創業からの流れをお聞かせください。

渡邊さん:ご先祖はもともと兵庫県にいて、加藤清正の家来でした。そして、清正公が熊本にいらっしゃる際に、一緒についてきたと聞いています。その後、清正公のご子息が流刑に処された際に、そのときのご先祖が商人の道に進まれました。それが創業の1715(正徳5年)年です。当初は質屋をしていまして、そこから酒造りをするようになり、現在の味噌・醤油の製造販売へと移ります。

「蔚山醤油」
「蔚山醤油」

――こちらのお味噌・お醤油の特徴を教えていただけますか。

渡邊さん:お醤油も、お味噌もそれぞれに種類があります。お醤油は「蔚山醤油」が昔からの定番です。この地域には清正公が名付けられた地名がたくさんありまして、電車通りのある三丁目はもともと「蔚山町(うるさんまち)」と呼ばれていて、その名前を付けたわけです。一方で、お味噌は昔から麦味噌を造りつづけてきました。麦味噌は熊本では一般的なお味噌で、地域にある他社さんも大抵は麦味噌です。あとは、麦と大豆を合わせたものや、さらにそこに米を加えたものなども造っています。熊本の方は甘いものが好みなようで、色々と試行錯誤してきた結果です。

味噌・醤油は店先で購入可能
味噌・醤油は店先で購入可能

――おすすめの食べ方や使い方などはありますか。

渡邊さん:「蔚山醤油」はほんのりと甘さがあるお醤油なので、熊本料理で言うなら馬刺しに丁度いいですし、九州はお魚が美味しいのでお刺身にもおすすめです。あとは、ぜひ普段のお料理にも使っていただければと思います。最近は「何でも、これ一本」みたいな便利な調味料が増えてきていて、ご家庭で一からお料理されることがずいぶん減ってきましたが、そうではなくて、「蔚山醤油」のようなこだわりの調味料を組み合わせて、ぜひ自分好みの味付けをしてみて欲しいです。

麹室を活用した資料室
麹室を活用した資料室

100年以上前の麹室。今は、歴史を伝える資料室に

――こちらの資料室についてお聞きしてもよろしいですか。

渡邊さん:こちらの資料室は、もともと麹室(味噌・醤油の麹を発酵させていた場所)です。昔の麹室は木や石がほとんどで、ここのように100年以上前の建物でありながら、煉瓦造りなのは当時の最先端だったと聞いております。実は、奥と手前で二重構造になっていまして、その間には籾殻(もみがら)が詰まっている。まさに魔法瓶のような構造で、外気温の影響を受けにくいのが特徴です。

もうここでは麹を造っていないので、20年ほど前から資料室として解放してきました。昔、熊本城下で「全国の菓子まつり」が開催された際に、そのお客さんを呼び込もうという話になったんです。そこで、「宮本武蔵が歩いた城下町」をコンセプトに、有名な蝋人形師・厚賀さんに宮本武蔵と宇治氏の戦いの様子を蝋人形で制作していただき、展示したのが始まりです。

質屋時代からの資料を展示
質屋時代からの資料を展示

――今、ここではどのような資料を展示されていますか。

渡邊さん:創業から今まで、私共や商売にゆかりのあるものを展示しています。例えば、質屋のときの帳簿や質草(質入れされた品物)、酒造りや味噌・醤油造りの樽や容器の道具などです。

――コロナ禍が落ち着いたら、また再開される予定ですか。

渡邊さん:以前は、国内はもちろん、韓国や中国など海外の観光客の方々がよく見にいらっしゃっていました。ただ、数年前の熊本地震であちこちがぐちゃぐちゃになり、さらに最近のコロナ渦で観光客がめっきりいらっしゃらないので、今は完全に閉めている状況です。今後、コロナが落ち着いたらまた整備をして、お客さんに見てもらえるようにしたいなと思っています。

長崎次郎書店と電停
長崎次郎書店と電停

昔ながらの町並みと、新しい暮らしが交差する新町

――新町の魅力はどこにあるとお考えですか。

渡邊さん:やはり、昔からの町並みですね。ここは熊本城の城下町で、もとはお城の入り口でした。今の人はあまりご存じないかもしれませんが、ここら一体は清正公が築いた熊本城のお膝元として各所に関所が設けられ、有事の際には敵がお城まで攻め入れないよう閉ざせるようになっていたんです。今は新しい建物があちこちにできて、昔の面影は薄れていますが。それでも、昔ながらの町並みはあちこちに残っていて、風情を感じられるのは新町ならではの魅力です。

――では、渡邊さんのおすすめのスポットはありますか。

渡邊さん:普段のお買い物であれば、表の通りにはお魚屋さん、お肉屋さん、八百屋さんがそれぞれあります。近くにスーパーもあるのでそちらでいっぺんに買うのもいいですが、通りを歩きながら昔からある専門店でそれぞれちょこちょこ買い集めるのも風情があっていいものです。

行楽スポットとしては、先ほども言いました通り、ここら一帯には昔ながらの町並みがあるので、建物を見て歩くのがおすすめです。「長崎次郎書店」さんとか、「肥後の諸毒消丸」の看板で有名な薬屋・吉田松花堂さんとか、うち(兵庫屋本店)とか古い建物がたくさんあります。

藤崎台球場とトンネル
藤崎台球場とトンネル

個人的には昔からよく広告にも起用される、「長崎次郎書店」さんと熊本市電の電停(「新町」駅)が丁度重なるところが風情があるかなと思います。あとは、リブワーク藤崎台球場をこちら側から見たときに、球場とトンネル(藤崎台隧道)を一緒に見られるのも好きです。

――新町の町ぐるみで取り組まれている催しはありますか。

渡邊さん:毎年のお祭りがいくつかあります。一番大きいのは毎年9月の「藤崎八幡宮の例大祭」です。熊本城の築城を清正公がお祝いしたのが起源とされるお祭りで、400年以上の歴史があります。最終日の神幸式では、飾り馬の奉納行列が町を練り歩き、そのあとをみんなで「どうかい!どうかい!」と言いながらついてまわるんです。去年はコロナ禍で中止になりましたし、今年もどうなるか分からないのですが、またできればいいなと思います。

昔の兵庫屋本店の写真
昔の兵庫屋本店の写真

――新しく新町に住まわれる方に何か一言いただけますか。

渡邊さん:まずは、私の代で潰さないよう、頑張っていきたいです。なかなか、現代で味噌・醤油だけでいくのは難しいところがありますので、そこをどうにかこうにか足掻きながらやっていきます。新町にいらっしゃった際には、ぜひ兵庫屋本店にもお立ち寄りください。

兵庫屋本店

15代目 渡邊さん
所在地 :熊本県熊本市中央区新町3丁目4-2
電話番号:096-352-0280
※この情報は2021(令和3)年3月時点のものです。